ビュートゾルフに学ぶ自主経営型組織の可能性と企業応用のヒント

こんにちは、Yatzです!

オランダ発の在宅ケア組織「ビュートゾルフ」は、ティール組織の代表例として世界的に注目を集めています。看護師が自律的に小規模チームを運営し、シンプルなITシステムで支援するという仕組みは、従来のトップダウン型マネジメントとはまったく異なるスタイルです。しかしその一方で、このような取り組みはまだ一般的とは言えず、適用にあたっては多くの困難が伴います。特に「自主性をどう尊重するのか」「従来型マネージャーと地域コーチの役割は何が違うのか」といった点は、企業組織に応用する際に理解しておくべきポイントです。本記事では、在宅ケア現場の課題からビュートゾルフの革新、さらに一般企業への示唆までを整理してみたいと思います。

名古屋商科大学(NUCB)のMBAカリキュラムの『Building a Culture of Innovation』で扱ったケース(書籍『ティール組織マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』)をもとに作成しております。

目次

ティール組織の実践例:ビュートゾルフの仕組みと企業応用のヒント

オランダの在宅ケア組織ビュートゾルフは、2006年に看護師ヨス・デ・ブロックによって設立された。背景には1990年代以降のオランダ医療制度改革がある。当時、在宅ケアは経済効率化を目的に細分化され、看護師は1回30分程度で訪問し、決められたタスクをこなす「分業型モデル」が主流となった。しかし、2000年代初頭には看護師のモチベーション低下や離職率の上昇、患者と介護者の関係性の希薄化といった弊害が深刻化し、医療費の抑制効果も限定的だった。

これに対してビュートゾルフは「小規模チームによる自主経営」という仕組みを導入した。10~12名の看護師が一つのチームを構成し、利用者への対応からシフト管理、採用まですべてを自律的に決定する。中間管理職は置かれず、代わりに40〜50人に1人の割合で「地域コーチ」が存在する。地域コーチは成果責任を負わず、チームに上下関係を持ち込まない支援者として運営や人間関係の課題解決を伴走的にサポートする役割を担う。この支援型マネジメントにより現場の主体性が高まり、持続的な改善が可能となった。

また、ビュートゾルフはシンプルなITシステムを活用し、煩雑な管理や報告業務を最小化した。看護師は「ケアの質」に集中でき、その結果として患者満足度が向上、再入院率が低下し、オランダ全体の医療費削減にも寄与した。2006年の創設からわずか10年余りで1万人以上の看護師を抱える組織に成長し、2015年には在宅ケア市場の約70%を占める規模へ拡大している。

この事例は、効率化を目的とせず「質の高いケア」を重視することが結果的に効率やコスト削減を生むという逆説を示している。さらに、従来の「地域マネージャー」が成果責任を持ちチームを管理する存在であったのに対し、「地域コーチ」は伴走者としてチームの自立性を支援するという点が大きな革新である。ビュートゾルフの仕組みは医療分野にとどまらず、企業組織における「自主経営型チーム」や「支援型リーダーシップ」の有効性を示唆している。

† 出典元:特定非営利活動法人フローレンス

地域密着型在宅ケアが直面した課題

経済効率化と現場負担のジレンマ

オランダでも在宅ケアはコスト削減圧力にさらされ、効率化が叫ばれてきました。しかし、効率だけを追求すると現場の看護師に負担が集中し、モチベーションが下がるという悪循環が起こります。数字の上ではコストが下がっても、現場は疲弊し、離職率も高止まりする状況でした。

シバ部長

効率を追い求めるほど、現場が苦しくなる。この矛盾は多くの企業にも通じますね。

利用者と介護者の関係性の希薄化

在宅ケアの本質は患者と看護師の信頼関係にありますが、短時間訪問やタスク細分化の仕組みでは、その関係性が築きにくくなります。結果として利用者の満足度が下がり、ケアの質も低下してしまうという本末転倒な事態が起きていました。

ビュートゾルフの革新的アプローチ

小規模チームによる自律的運営

ビュートゾルフは10~12人の看護師チームを基本単位とし、各チームが自主的に運営します。上司の指示を待つのではなく、患者のニーズをもとに最適なケアを考えチームで意思決定します。この「小さな自律」が現場に力を与えました。

ITシステムを活用したシンプルな仕組み

複雑な報告や管理を極力排し、シンプルなITシステムを用いることで、看護師は本来の仕事である「ケア」に集中できるようになりました。ITは監視の道具ではなく「支援のインフラ」として機能している点が特徴的です。

新人ペンタ

へぇ~、ITって監視じゃなくて応援ツールになるんだ!なんか安心しますね~

「ケアの質」を起点とした効率化

ビュートゾルフは効率そのものを目的とせず、「質の高いケア」を追求する中で結果的にコスト削減や効率化が実現しました。信頼関係が強化されることで再入院率が減少し、全体として医療費も削減されるという、逆説的な効果が生まれています。

地域コーチという新しい支援型マネジメント

指示するのではなく伴走する役割

従来の「地域マネージャー」は成果責任を持ち、チームを管理・指示する立場でした。対して「地域コーチ」は結果責任を負わず上下関係もなく、チームが自律的に動けるよう伴走する存在です。40~50人規模に1人アサインされ、採用や人間関係など多岐にわたる課題にアドバイスを与えますが、意思決定はあくまでチームに委ねられます。

ブル取締役

管理ではなく支援か。だがその方が長期的に強いチームを作れるということだな。

企業組織に応用する際のポイント

  • 自主性を尊重する文化づくり
     指示待ちではなく、自分たちで考える文化を醸成することが前提です。
  • 評価・成果の基準の再設計
     短期的な数値ではなく、長期的な価値や信頼構築を評価する仕組みが必要です。
  • 支援型リーダーシップの育成
     リーダーは答えを出す存在ではなく、チームの自律性を引き出す役割へと転換する必要があります。

ただし、これらは、チームが自主的であることが前提なので、チームが受け身でコーチの依存度が高まると機能しない部分や、仕組み自体が数値化しにくい部分があり評価が難しい部分が考えられます。

個人から始める組織文化変革

ビュートゾルフの事例は「自主経営」と「支援型マネジメント」の可能性を示していますが、これは決して医療業界に限った話ではありません。
私たちが企業でできる第一歩は、小さな会話の積み重ねです。部署を超えて交流し、「ギブ&テイク」を作るにはまず自分からの「ギブ」を意識する。
さらに相手の会話を否定せずにポジティブに応じることで、雰囲気や関係性は確実に変わっていきます。

組織文化の変革はトップダウンだけでなく、個人の行動からも始められる。ビュートゾルフはそんなメッセージも我々に投げかけているのではと感じました。

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この記事を書いた人

いち40代サラリーマンの「もがき」、ここにあります。
上からは無茶ぶり、下からはZ世代の鋭いツッコミ──そんな板挟みの日々を送る、しがない中間管理職です。
「50代こそ、きっと人生の黄金期になる」と信じて、今日もなんとか踏ん張っています。

これまで、新規事業の立ち上げから、事業計画の策定、M&AやPMIまで、実務を通じて経験してきました(いずれも3〜7年ほど)。

実務の現場で感じたこと、学んだこと、そしてちょっとした愚痴まで、共感いただけるあなたに届けたいと思っています。

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