愛されるブランドでも危機は来る:マギーヌードル事件の教訓

こんにちは、Yatzです!

インドで“国民食”とまで呼ばれたネスレのマギーヌードルが、ある日突然、店頭から姿を消しました。「鉛の混入」という衝撃的な報道がきっかけで、政府当局は販売を全面禁止し、消費者の信頼は一気に崩れ去ったのです。
信頼は築くのに時間がかかる一方、崩れるのは一瞬。ブランド力にあぐらをかいた瞬間に、企業は深刻な危機へと陥ります。

今回のマギーのケースは、品質管理だけでなく、リスク対応、広報、そしてグローバル企業におけるローカル対応の難しさを浮き彫りにしました。
企業が顧客の信頼を守るために何をすべきなのか──この事件は、単なる食品問題を超えて、企業活動に多くの示唆を与えてくれます。

名古屋商科大学(NUCB)のMBAカリキュラムの企業統治と企業倫理『Corporate Governance and Business Ethics』 のDAY2で扱ったケースをもとに作成しております。

目次

インドにおけるマギーヌードルの安全性危機

ネスレとマギーブランド

ネスレは、スイスに本社を構える世界最大級の食品会社でありインドには1912年に進出。インド国内で特に成功した商品が「マギー・インスタントヌードル」で、1983年の発売以来国民的食品となっていました。
2014年にはネスレ・インドの売上の約25%をマギーが占め、年間25億食以上が消費されていた。

危機の発端:鉛とMSGの含有疑惑

2015年4月、インド・ウッタルプラデーシュ州の食品安全当局(FDA)は、マギーヌードルに基準を超える鉛が含まれていたと発表し、またMSG(グルタミン酸ナトリウム)が表示されていなかった点も問題視された。この報道を受け、他州にも波及し、全国的な懸念が広がる。

ネスレ・インドは「製品に問題はない」と主張したが、消費者の不安やメディアによる追及が強まる中、FSSAI(インド食品安全基準庁)は全国的なリコール命令を出し、マギー販売が全面停止に。ネスレはリコールを受け入れたが、対応の遅れや姿勢に対して批判が殺到した。

危機管理とコミュニケーションの欠如

ネスレは危機の初期において「科学的事実」に重きを置く姿勢を貫き、「安全性は保証されている」とする立場を崩さなかった。だが、消費者が求めていたのは「安心」であり、企業からの共感的な説明や対話姿勢だった。

社内では「なぜ不安がここまで高まっているのか」が理解されておらず、SNS上ではボイコット運動が拡大。各州政府や消費者団体、インフルエンサーなど多くのステークホルダーが、企業の姿勢に不信感を持ち始めていた。

教訓となる過去の事例:1977年の粉ミルクボイコット

この事態において、ネスレ社内でたびたび参照されたのが「1977年の粉ミルク問題」である。
当時ネスレは、途上国で粉ミルクを積極販売し、母乳育児の代替を推進するようなマーケティングを行っていた。衛生状態の悪い環境で不適切に使用されたことで乳児の死亡率が上昇し、アメリカを皮切りに国際的なボイコット運動が発生。1981年にはWHOとユニセフが「母乳代替品のマーケティング国際規範」を策定し、ネスレも1984年に受け入れた。
これは、「企業が法的には正しくても、倫理的には非難されうる」ことを証明した事件である。

この事件はのちに映画化もされています。

† 出典元:映画『汚れたミルク あるセールスマンの告発』

結末と社内改革

その後、ボンベイ高裁がマギー製品に対する販売禁止措置は「不合理」と判断。政府指定の3つの公的機関による再検査で鉛の含有量は法的基準内であることが確認され、2015年11月にマギーは販売を再開。

しかし、消費者庁からは「誤解を生む広告」によって訴訟が提起され、約1億ドルの賠償請求も受ける。またFSSAIも最高裁に異議申し立てを行い、法廷での対立は続くこととなった。

こうした一連の対応の中で、ネスレ・インドは新たなCEOとしてスレシュ・ナラヤナンを任命。彼は「消費者の視点」と「共感」を軸に、組織文化の改革に取り組んだ。また、グローバル本社のCEOポール・ブルケも「私たちは事実を重視するが、ステークホルダーにとっての意味(perception)を軽視していた」と反省を語った。

当時のインド

インドの食環境

2010年代のインドでは、急速な経済成長とともに食の多様化が進んでいました。伝統的な家庭料理に加えて、都市部を中心に加工食品や即席食品の需要が高まり、共働き世帯の増加もあって「簡便・時短」な食事が求められるようになっていました。
とはいえ、地方都市や農村部ではいまだに衛生環境や栄養状態に課題を抱える世帯も多く、「安全で手軽な食品」への信頼が消費行動に強く影響していました。

インドでのマギーヌードルの立場

「マギー・インスタントヌードル」は、1983年の発売以来、インドの国民的食品とも言える地位を築いてきました。
1袋10ルピー前後という手頃な価格、調理の手軽さ、そして「おやつ」から「軽食」「子どものお弁当」にまで幅広く使える利便性から、2014年時点で年間25億食以上が消費され、ネスレ・インドの売上の25%以上を占める中核商品となっていました。

ボイコットへの対応をどうするかは本当に悩みます

応じるメリットとリスク

メリット

  • 誠実さ・共感姿勢を示せ、事態の鎮圧化を計れる。
  • NGOや消費者団体など世論との対話を促進し、ブランド価値の再構築につながる。
  • CSR(企業の社会的責任)への取り組みが進んでいる欧米の視点からもポジティブな評価を得られる。

などが考えられます。

❌ リスク

  • 一時的な売上・株価の下落を招く可能性が出てくる。
  • 「非を認めた」と捉えられ、他の製品にも波及する恐れが発生する
  • 謝罪が不適切に受け取られると、消費者からの損害賠償請求が拡大する可能性がある(アメリカ型参考)。

応じないメリットとリスク

メリット

  • 科学的根拠を守る立場を堅持することで「正しいことをしている」という企業の信念を維持できる。
  • 製品への信頼性を裏付ける姿勢として、他国への説明材料にもなり得る。
  • 謝罪や譲歩により他の製品まで槍玉に挙げられるというリスクの連鎖を避けられる。

❌ リスク

  • 「共感なき企業」として、誠意ある説明がないことはブランド毀損に直結する可能性。
  • 過去の問題(粉ミルク事件など)の再燃として、過去の倫理問題を蒸し返され、国際的なボイコット運動が広がるリスクがある。
  • 政府や消費者庁による規制強化、訴訟リスクが拡大する可能性が発生する。

どちらを選択しても、想定通り進むとは限らないので当時のCEOは相当頭を悩ませたのではないでしょうか。
本当に難しい問題です。
法的・科学的な正しさ以上に、社会的・文化的・感情的な応答の重要性が問われる、当時としては非常に難解な問題だったと思います。

さいごに 「科学より共感」マギー危機が突きつけた“伝え方”の本質

マギーヌードルの危機は、単なる食品リコールではなく、「企業が社会とどう向き合うか」という姿勢そのものが問われた事件でした。

ネスレにとってインドは巨大市場であり、マギーは「日常に溶け込んだブランド」でした。だからこそ、企業が示すべきだったのは「科学的説明」だけでなく、「生活者の不安や声にどう応えるか」という真摯な姿勢でした。
でも、失敗したから分かったことであり、実際にすぐに生活者に寄り添ったら今度は株主からなんて言われるか分かったもんじゃないですからCEOとしては眠れない夜を過ごしたことでしょう。

ただ、後で振り返ってみると1977年の粉ミルク問題を経てもなお、今回も「事実」ではなく「感情への対応」に後れを取ったことが、ブランドへの信頼を大きく損ねたという結論になるんですかね。

企業倫理や危機管理は、「正しさ」よりも「伝わり方」や「信頼の再構築」に力を注ぐ必要がある――そうした示唆を与える良い事例だったと感じました。

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この記事を書いた人

いち40代サラリーマンの「もがき」、ここにあります。
上からは無茶ぶり、下からはZ世代の鋭いツッコミ──そんな板挟みの日々を送る、しがない中間管理職です。
「50代こそ、きっと人生の黄金期になる」と信じて、今日もなんとか踏ん張っています。

これまで、新規事業の立ち上げから、事業計画の策定、M&AやPMIまで、実務を通じて経験してきました(いずれも3〜7年ほど)。

実務の現場で感じたこと、学んだこと、そしてちょっとした愚痴まで、共感いただけるあなたに届けたいと思っています。

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