こんにちは、Yatzです!
今回取り上げるのは、3M社のイノベーション文化の進化と、それに伴う課題、特に医療関連部門での「リード・ユーザー・リサーチ」という新しい市場アプローチについてです。3Mといえばポスト・イットやスコッチテープなど、数々の革新的商品を世に送り出してきた企業。その背後には、実は「場当たり的」ともいえる自由度の高い開発文化が存在していました。しかし、そんな3Mでも時代と共に直面する課題があり、特にメディカル・サージカル事業部では限界が見え始めていました。この記事では、ケーススタディや補足資料を基に、3Mの試行錯誤とその突破口を探る動きについて備忘録的にまとめてみたいと思います。
3Mの試行錯誤と進化:リード・ユーザー導入までの背景
3Mは1902年に鉱石発掘の目的で設立されましたが、事業はすぐに失敗。その後、紙やすり製造に転換し、数々のトラブルと改善の経験を通して「試行錯誤の文化」を築き上げました。この自由闊達な文化がポスト・イットやスコッチテープといった代表的な商品を生み出す土壌となりました。「15%ルール」や「許可よりも許しを求めよ」といった独自の企業文化もここから根付きます。
しかし1990年代後半、同社のヘルスケア部門、特にメディカル・サージカル事業部では成長が停滞。手術衣ビジネスでは過去5年間に大きなヒットが一度しかなく、従来の市場調査手法が限界に達していました。調査は「平均的ユーザーの声」を拾うにとどまり、革新的なニーズには結びつかなかったのです。
こうした状況を打破するため、1996年にMITでリード・ユーザー法を学んだメアリー・ソナックが社内で手法を紹介。これをきっかけに、シニア・プロダクト・スペシャリストのリタ・ショーが1997年に事業部でリード・ユーザー・リサーチを導入しました。リード・ユーザーとは「一般のユーザーより先に課題を感じ、すでに自分で解決しようとしている人々」を指し、医師や軍医、獣医といった先端現場の専門家が対象となりました。
この調査から、チームは3つの製品コンセプトを導き出しました:
- 高性能な新しい手術衣素材 – ウイルスや体液の感染防御性能を強化。
- 術前の皮膚感染予防製品 – 患者自身の皮膚に潜む菌リスクを低減。
- 感染管理を支援する補助的ツール – 手術現場での利便性と無菌維持をサポート。
さらに議論の中で、単なる製品改良にとどまらず、「感染予防全体を新たな戦略領域とする」第4の提案も浮上しました。これは事業部全体を方向転換させる可能性を持つ大きな構想でしたが、リスクの高さから経営陣の受け入れは不透明でした。
従来の漸進的イノベーションから脱却し、リード・ユーザーの知見を活用して革新的な成長を模索する3Mの挑戦を描いています。
3Mにおけるイノベーションの進化と課題
創業期から積み上げられた試行錯誤の文化
3Mのイノベーション文化は、失敗から学び、現場の声を聞くという姿勢から始まっています。初期の事業失敗を経て、紙やすりの不具合を技術者が独自に調査し解決。こうした経験が「許可を取るより許しを得よ」という文化に結実しました。また、社員には勤務時間の15%を自分のアイデアに使う制度が設けられ、ポスト・イットなどがその成果として誕生しています。

こういう文化が続く会社は珍しいのう。まるでGOOGLEじゃ。
この自由さがイノベーションの土壌となり、「失敗を祝福する」までに至ったのです。
「顧客との距離」が生んだ成長と、その限界
3Mでは長年、営業担当や既存顧客とのやりとりから製品ニーズを抽出していましたが、次第にそれが限界を迎えます。特に医療分野では、現場の声をもとにした製品開発が細かな改善にとどまり、大きなイノベーションには至らなかったのです。



現場の声も大事だが、未来の声を聴け、ってことだな。
市場調査も外部委託が主流となり、独自性に乏しい情報ばかりが集まるようになっていました。こうして、イノベーションは徐々に停滞していったのです。
リード・ユーザー・リサーチという新しいアプローチ
従来型市場調査の制約と行き詰まり
従来の市場調査は、顧客の平均的な声を拾い上げるものでした。その結果、得られる情報は定量的で客観的ではあるものの、革新的なヒントには乏しいものでした。フォーカスグループからの意見も漠然としており、「これからのニーズ」をつかむことが困難でした。



え、えっと……なんかこう、無難な案ばかり出ちゃうんですよね……。
このような手法では、未知の市場やニーズには到底アプローチできないことが明らかとなっていったのです。
先端ユーザーとの協働がもたらす可能性
リード・ユーザー・リサーチの導入により、状況は一変します。普通のユーザーよりも先に課題を感じ、それに対して独自に工夫・改良を行っている人たちのインサイトを活用する手法をとりました。実際に、感染予防の最前線にいる医師や軍医、さらには獣医など多様な視点を持つ専門家からのインサイトが、従来にはない製品コンセプトを生み出しました。
チームは、「画期的な製品とは何か」という視点から製品設計を見直し、「体にフィットし、既存製品より効果的で、着脱しやすい」という基準を設定。プロジェクトはチームメンバーが自発的に動く形で進行し、従来型のヒエラルキーにとらわれない形で進みました。



なんか、自由研究みたいで楽しそうっすね〜!
このプロセスが、3Mのイノベーション文化を再び活性化させる可能性を感じさせるものでした。
メディカル・サージカル事業部の戦略的選択
製品コンセプト提案にとどまるべきか
リタ・ショー率いるチームは、最終的に3つの製品コンセプトをシニア・マネジメントに提案しようとします。多くの社員がまだ従来型の業務をこなしながらの参加であったこと、また、3M社の文化的に初期段階の投資に慎重であることを踏まえ、まずは実績を出して信頼を得る方針が現実的と判断されました。



まずは筋トレと一緒。実績作って信頼勝ち取るのが先っす!
この段階では、リード・ユーザー・アプローチの有用性を証明することが最優先だったのです。
組織全体の方向性を変える挑戦へ
一方で、チームは感染予防全体を視野に入れた新しい戦略案も模索していました。既存の製品改善ではなく、根本からニーズを捉え直すアプローチは、3Mの進化を象徴するものでもありました。とはいえ、当時のシニア・マネジメントは不確実性に慎重であり、提案のタイミングや進め方には繊細な配慮が必要でした。



一歩目で全部変えようとするな。まずは相手に歩幅を合わせろ。
長期的には、この新たな方向性こそが組織変革のカギとなる可能性を秘めていました。
リード・ユーザー・リサーチの発展
折角なので、リード・ユーザー・リサーチを深堀ってみたいと思います。
リード・ユーザーの見つけ方
リードユーザーは、市場の平均的な消費者よりも早く課題に直面し、自ら解決策を模索している存在です。彼らを見つけることは簡単ではありませんが、いくつかの方法論が体系化されています。
- ピラミッド法
専門家や高度な利用者に「さらに進んでいる人は誰か?」と尋ね、階層を上るようにリードユーザーへ到達する方法です。権威ある専門家や先端研究者を起点にすれば、効率的にトップ層のユーザーに辿り着けます。 - リスト法
学会発表、特許、SNSや専門フォーラムの投稿など公開情報から候補者をリスト化するアプローチ。網羅性が高く、広範囲にユーザーを洗い出すことが可能です。 - ネットワーク法(スノーボールサンプリング)
既に見つけたリードユーザーからさらに紹介を受け、連鎖的に探索を広げる方法。現場に強いネットワークができあがるのが特徴です。 - オンラインコミュニティ探索
Reddit、Twitter(X)、専門ブログやFacebookグループなどで積極的に発言しているユーザーを探すやり方です。近年のデジタル時代においては有力な手段となっています。 - コンテスト/アイデア募集
企業が「未来の製品アイデア」を募ることで、熱心なユーザーを浮き彫りにする方法です。LEGOの「LEGO Ideas」は有名な成功事例で、ユーザーの情熱が商品化に直結しました。 - フィールド観察(エスノグラフィー)
ユーザーが現場でどのように製品を使い、工夫しているかを直接観察する方法。医療やスポーツなど、極端な環境でのユーザー行動が革新のヒントになります。 - データ分析による発見
購買履歴や利用ログを分析し、平均より早く新製品を試す層を抽出する方法です。デジタルマーケティングの発展で実用性が高まっています。
これらの方法を組み合わせることで、偶然ではなく戦略的にリードユーザーを特定し、開発へと結びつけることが可能になります。
リードユーザーリサーチで生まれた主な商品
リードユーザーリサーチは3Mだけでなく、さまざまな企業で成果を上げてきました。代表例を挙げます。
- スポーツ用品(ナイキ、アディダス)
トップアスリートの極限的なニーズから、軽量かつ高耐久なランニングシューズや通気性素材が生まれました。競技環境に適応した製品は、その後一般消費者にも広がっています。 - 医療機器(ジョンソン・エンド・ジョンソン、ボストン・サイエンティフィックなど)
手術現場の先端医師が工夫していた技術を製品化し、低侵襲手術用の器具や新しいカテーテルが誕生しました。現場の「困りごと」が市場を大きく動かす好例です。 - ソフトウェア(オープンソース分野)
LinuxやApacheのように、開発者自身=リードユーザーが必要に迫られて作ったソフトウェアが、のちに世界標準となりました。ユーザー主導のイノベーションが象徴的に現れる分野です。 - 消費財・日用品(P&G、フィリップスなど)
家事や育児をするユーザーの先行ニーズから、新しい洗剤の改良や電動歯ブラシが開発されました。平均的な調査では拾いにくい「負担を減らす工夫」が、リードユーザーから直接吸収されています。
未来のイノベーションは「顧客の先」にある
3Mの事例から見えてきたのは、イノベーションは偶然の産物ではなく、文化と仕組みによって促進されるものだということです。リード・ユーザー・リサーチは、その文化を再構築する一つの手段として機能しましたが、根底には「未知を恐れず、現場とともに動く姿勢」がありました。
大きな変化は一朝一夕では生まれませんが、小さな挑戦の積み重ねがやがて企業全体を変える力となる。そう思わせてくれる実例でした。
コメント